前の記事は「親の言うことを聞きません」というお悩みへの解説その③でした。『言われたことがわかる仕組み』のひとつとして、短期記憶:ワーキングメモリの大切な役割を解説しています。
今回は「言うことを聞かない」お悩みへの解説、その④です。ここではワーキングメモリが働く仕組みについて。
残念ながら『監督がいないとワーキングメモリは活躍できないんですよ』って内容です。
ワーキングメモリのおさらい
ワーキングメモリというのは『脳の部分を指す名前』ではありません。有効に使われる短期記憶のことです(使われない短期記憶もある)。
「フムフムそういうことか。ならば、こうしよう」と考えたり行動したり、判断しするときに使われる脳の働きのこと。ワーキングメモリという脳の仕組みのおかげで、私たちは不都合なく日常生活を送っているわけです。
行動や決断に必要な様々な情報(記憶情報を含む)を一次的に保持しつつ組み合わせ、行動や決断を導く認知機能として要約できる。(中略)思考や言語、理解、理性など、普通に言う「精神活動」の中心を占めている。()内筆者
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前頭連合野はワーキングメモリの監督
ワーキングメモリを使うとき、脳のどこが一番活動するんでしょうか?研究者が生きている人の脳を画像で観察したところ……
前頭前野/ぜんとう/ぜんや とも言います
『前頭連合野/ぜんとう/れんごうや』という額、おでこのあたりの活動が一番活発になることがわかったのです。つまり前頭連合野がしっかり発達していないと、ワーキングメモリも活動できないということ。
考える。判断する。行動する。前頭連合野が『監督さん』として発達してから、やっと可能になる仕事です。『前頭連合野』は、自我や社会性にも関係する部分。脳のあちこちの中でもゆっくり発達が進む場所です。
監督無し=無計画な行動に
乳幼児さんたちはまだ監督が育っていません。その頃の行動や要求のしかたを思い出してください。
感情に直結。まず「自分!」ですね。「(自分は)あれが欲しい!」「(自分は)こうしたい!」自分の要求だけしか思い浮かばない時期です。
要求が通らなかったら「ギャアアァァ!」。相手の都合やTPOなんておかまいなしで泣き叫びます。まだ監督のコントロールがないので、『考え初心者』『人との関わり方初心者』『自分コントロール初心者』なんですね。
監督が育ってくると行動が変わる
監督(前頭連合野)が成長していくとだんだん変わってきます。「相手の気持ちは?」「こういうときどうするか?」「なぜだろう?」
ちょっと高いところから見下ろす感じで、ものごとを考えられるようになってくる。これが『監督』が順調に育ってきた目印です。要求が通らなくても泣くのを我慢したり、自分を落ち着かせることもできるようになります。
前頭連合野がゆっくり発達する理由
わたし
わたし(8才)
なぜ発達するのに時間がかかるのか?
『他の部分が発達すると、そこから必要な情報が適切に得られる。その結果、情報伝達の回路が鍛えられて使えるようになるから』・・・・これではわかりにくいですね。
ビル建設の最上階みたいなもの、と考えたらいいかも知れません。建物を建てる時。最上階からは作りません。
まず基礎工事をしっかりします。土台がしっかりしていればその上にどんどん高く建設していけます。タワーマンションだってスカイツリーだってできる。160階建てのブルジュ・ハリファだって建てられる。
まず土台しっかり。その土台の強度があるから、上へ上へと出来ていく。脳のコントロールセンター、前頭連合野は上の方です。最上階と言ってもいいくらい。後からだんだん出来上がるというのも、ガッテンですね。
前頭連合野が育つまで待ってね
ワーキングメモリを働かせる監督さん『前頭連合野』が出来上がるのには時間がかかるとわかりました。
おもちゃで遊んだ。ロボットでも遊んだ。ブロックも出した。ママが「片付けなさい」っていつも言う──
こんなことを『記憶から取り出し』たり『考えて』『判断する』のに必要なのがワーキングメモリ。でも、それを働かせてくれる監督がいない期間があることを知っていて欲しいのです。
『覚えて』『考えて』『判断する』脳の仕組みがまだ出来ていないのに「何回言ってると思ってるの!と叱っても意味がないということ、おわかりいただけるでしょうか。
言うこと聞けるようになるまで待ってね
まず自分!の時期を安心して過ごせたら、脳の土台がしっかり作られます。大きな土台からは立派な監督が育ってくきます。
楽しみですね。
- 『判断や行動に使われる記憶』としての『ワーキングメモリ』
- 『ワーキングメモリ』を働かせる監督は額の部分にある『前頭連合野』
- 『前頭連合野』は脳の中でもゆっくり発達が進む場所
- 前頭連合野が発達していない間は何回言っても覚えられないし適切な判断ができない
参考文献
(1)澤口俊之. 幼児教育と脳, 文春新書, 1999, p. 104.