育児を始めたばかりの頃、言葉を話せない赤ちゃんとのやりとりに『手ごたえがない』『自分は何やってるんだろう』と、むなしい気持ちを経験する人がいます。生活が大きく変わって赤ちゃん中心になるのに、疲れたり達成感がなかったりするとネガティブな感情が湧いて来るのも無理ありません。
そんな時『愛着』がいつ作られるのかを知れば、毎日のお世話がどんなに価値のあるものか実感できるはず。愛着はその人の『考え方や行動』を決める土台になる脳内の仕組みです。
安定した愛着を作るために、親がしてあげられることは何か?注意することは?これがわかれば、きっと育児に自信がが持てるようになります。
ざっくり説明『愛着』
考え方や行動の基礎
愛着とは何か?簡単におさらいします。愛着とは『特別な人との間に作られる強い結びつき』のこと。
わたし
わたし(8才)
愛着は『社会生活』『物ごとの受け止め方』『考えや行動』に関わるもの。『対人関係のスタイル』『生き方や関心』『恋愛や子育てへの向き合い方』『ストレス耐性』『健康』にまで大きな影響を持ちます。愛着は無意識のレベルで精神の奥底に作られ、安定した愛着は安心と信頼の基礎になります。
わたし
わたし(8才)
愛着は4種類
研究の結果、愛着は次の4種類に分類されています(1)。
- 安定型
- 回避型
- アンビバレント型
- 無秩序型
「この世界は安心できる場所で、人はきっと自分を助けてくれる」と、人への信頼や愛がベースになって作られている愛着は『安定型』です。その他の愛着は不安定で、社会や人間関係で生きづらさを抱えてしまいます。
安定型愛着を作りたい
わたし(8才)
愛着が作られる時期
生後6ヶ月から1歳半
研究者は特に大切な『愛着形成期』として『生後6ヶ月から1歳半までが重要』と言います(3)。しかし愛着は生後すぐから作られ始め、3歳くらいまでかけて少しずつ特別な結びつきになっていくのです。
わたし
その1年間だけってわけじゃないのね
アプリのダウンロードとは違うから
わたし(8才)
しかも、3歳ごろは少しずつ母親から離れ外の世界を探検し始める『母子分離(ぼし/ぶんり)』と言われる期間にあたります。子どもの成長にとって重要、かつデリケートな時期。
安定した愛着をしっかり作るには『生後すぐから5歳ごろまで』と考えた方が安全です。
最も重要な、愛着が作られる土台の時期は『生後6ヶ月から1歳半』の間と言われます。しかし6ヶ月まで全く作られず、翌日から突然愛着ができ始めることはありません。また、1歳半を過ぎると、『親から離れる第一歩』を踏み出すデリケートな時期につながって行きます。安定型の愛着を作るために、生まれてすぐから5歳までは大事な期間と考えた方がいいでしょう。
安定型愛着を作る方法
泣く、こちらをじっと見る、手足を動かしてアピールする。寄ってきてくっつく、抱っこをせがむなどは子どもの『求めサイン』です。求めサインに『すぐ気付いて応じてあげること』が安定型愛着を作ることになります。
わたし
人見知りとか後追いとか
わたし(8才)
注意ポイントは3つ
求めて来た時に応じる
あくまでも『子どもの方からの求め』に応じることが大事です。『なにもかも親がやってあげる』『こうしたほうが安全』など先回りする育て方は、子どもの自立を妨げてしまいます。自分で決めたり判断したりできない、依存心や不安の強い人になりかねません。
叱ったり拒否しない
泣き声に「うるさい!」と叱ったり、抱っこをせがんでも「甘えるな」と拒否したりすると、安定した愛着は作られません。『求めサイン』を受け入れてもらえないことを繰り返し経験すると、「自分は受け入れてもらう価値の無い存在だ」と無意識に刷り込まれてしまいます。
親の都合で態度を変えない
親の気分・都合で可愛がったり放っておいたりしないこと。一貫性のない態度で接してしまうと、子どもはどっちの態度が親の本当の姿なのか分からず混乱します。すると子どもの行動も不安定で、一貫性のない行動を取るようになってしまうのです。
わたし
子どもは親の態度を参考にして
自分の価値や世界を知るんだね
わたし(8才)
『求めサインに気付いて応える』と言えば、何か特別のことのように聞こえます。でも赤ちゃんや幼児がいる生活ではごく普通のこと。泣けばあやすし、抱っこと言えば抱き上げてあげるでしょう。だからこそ『普通のこと』を『普通にできるように』──育てる人も健康で、安定していることが欠かせません。
わたし
頑張りすぎると
ムリが来る
わたし(8才)
育てる人が『自分を犠牲にしている』『辛い』と感じていたら、どこかに無理が来ているサイン。安定型の愛着を作るには、まず育てる人に心と体の余裕を確保することが肝心です。『子育てを助けてくれたり気持ちを共有する仲間』は絶対に必要ですし、それは育てる人の甘えではなく、子どものためでもあるのです。
愛着型の確立は10代以降
幼い頃の愛着の型は、まだ完成形ではありません。母親とは不安定な愛着の様子を見せる子どもでも父親とは安定している、ということも。救いなのは、育てる人との愛着が不安定でも、他の大人や仲間との良い出会いによってカバーされ、安定した愛着の型に育つこともあるのです。
わたし
いつ誰と出会うか?
他の人にも左右されるんだね
わたし(8才)
5歳までどんなふうに育ててもらったか?いつどんな人と出会って、どんな経験をしたか?──そういった土台を基に、10代のはじめ頃からその子なりの愛着が明確になり始めます。例えば、困難に直面したとき。諦めるのか?逃げるのか?それとも努力してチャレンジするか?『生き方』や『物事への姿勢』にも、愛着の型は明らかに映し出されて来るのです。
そして成人する頃には、確立した愛着の型となります。子育ては育てる人の思うようにはなかなかなりません。しかし『環境の運』に任せるより、安定型愛着を作れるように手助けしてあげる方が、親子とも幸せになれるのです。
まとめ
- 愛着とは『特別な人との間に作られる強い結びつき』のことで、考え方・行動・心身の健康にも影響を及ぼす
- 愛着は『安定型』を含め4種類
- 生後すぐから5歳くらいまでは愛着作りの重要期間
- 求めサインに応える/叱らない・拒否しない/親の都合で態度を変えない
- 育てる人に心と体の余裕を確保
- 5歳までは土台。その上に環境と経験が積み重なっていき、成人する頃『愛着の型』が完成
泣いたり声を上げたりして何かを求めれば、いつもの人が『すぐに来てくれる』。怖いとき・不安なとき・甘えたいときも『いつでも抱きしめてくれる』。そんな『いつも守られている』という安心経験を積むことで、安定した愛着が形成されます。
特別な何かをする必要はありません。子どもを「可愛い」と感じて、求めサインにすぐ気付いて応じてあげられたら大丈夫。
幼い子どもとの生活に大きな手応えがないように感じていても、あなたは子どもに『生きる力』を育む大切な瞬間を支えているのです。「自分は大切な存在だ」と絶対的に信じ、大人になっても意欲的に生きていける人に育ててあげる『スーパーすごい人』。それは、あなたです。
参考文献
- (1)杉山登志郎. 子育てで一番大切なこと: 愛着形成と発達障害,講談社現代新書, 2018, p. 54-59.
- (2)岡田尊司.愛着障害:子ども時代を引きずる人々,光文社, 2011, p. 37-38.
- (3)岡田尊司, p. 24-25.