『言うことを聞かない』というお悩み3パターンについて以前書きました。
その中の一つ、『言葉を理解していないから言うことを聞けない』に関して。
言葉・物事を理解するその仕組みについて、もう一歩理解を進めたいと思います。
これを知ると子どもたちの『脳』が可愛くなっちゃいますよ。
リンゴをリンゴとなぜ分かる?
脳の仕組みを知るために『もの当てゲーム』をしましょう。
ヒント1『赤いものです』
ヒント2『丸いものです』
ヒント3『果物です』
この辺で「リンゴ!」と出てきましたね?リンゴだと思った人は、『リンゴそのもの』も『リンゴという単語』も知っているってことです。
ではこちらは↓いかが?
どれもリンゴですね。
今まであなたが見たリンゴと『全く同じもの』は一つもないはずなのに、なんでリンゴだと思うんです?
今、リンゴだと判断しているのは『脳』なんです。(ええ?!脳なの?!と驚く方はあんまりいない)
人間とコンピュータ:『分かる』の違い
コンピュータと脳の違い、判断の仕組みを比べてみましょう。
コンピュータは『完全一致するものを大量に保存できて、それと照らし合わせて判断』します
※注 2019年現在。AI/(エーアイ)人工知能の発達によってこの表現がそぐわなくなってきている面もあります
でも脳は記憶の仕組みが違います。
『そういうもの』というざっくりした特徴を抜き出して記憶して、その特徴の仲間分けで判断するんです。
『~というもの』『そういうもの』のことを概念(がいねん)と言います。
わたし
わたし(8才)
なぜ脳は、概念で記憶・判断する仕組みなのか?
私たちがコンピュータみたいに、一つのデータを完璧に覚えてしまったら、困ったことになるんですね。
「この目の前にあるまん丸の赤いものがリンゴ」と完全記憶してしまったら。
「ちょっとでも変形しているものはリンゴじゃない。緑がかっている部分があればリンゴじゃない」となってしまいます。
人間の脳はいい加減
人間の脳は『100%一致するものを完璧に記憶』するわけじゃありません。
だからこの写真をみても↓
「リンゴです」とわかる。
↑「棒が刺さっているリンゴです」とわかる。
↑「リンゴ(をモチーフにしたデザイン)ですね」とすぐわかる。
頭の中に『リンゴとはこういうもの』という概念、特徴を取り出した理解があるからわかるんです。
人間の脳では記憶は他の動物に例を見ないほどあいまいでいい加減(中略)それこそが人間の臨機応変な適応力の源
(1)
本当に『いい加減』で『適当』。脳って素晴らしくカワイイです。
赤ちゃんは『~というもの』ハンター
赤ちゃんの脳はまだ『リンゴとはこういうもの』を持っていません。経験を通して『リンゴの特徴を抜き出していく』作業をやります。どんどん集める。
そのうちにわかってくる。
- リンゴというものはだいたい丸い
- 形がイビツなのも、大きい・小さいもある
- 真っ赤なのもマダラなのもある
- 切ったら薄黄色で種があって食べられる
- ショリショリ歯ごたえで甘酸っぱい
- ときどきウサギさん
- お店屋さんで売ってる
- 木になってる
わたし
わたし(8才)
この『~というもの』という概念の考え方・とらえ方ができてくるのが、物事の理解にとっても大切なことなのです。
脳はあわてん坊じゃダメ
『~というもの』の正確性や制度を上げるためにも、手っ取り早く分かってしまってはいけません。
「あー、はいはい。丸くて赤いのがリンゴね!」そんなあわてん坊の脳だと、トマトやアセロラ・さくらんぼも「リンゴ!」だと思っちゃうかもしれません。
もし、学習のスピードが早いと、表面に見えている浅い情報だけに振り回されてしまって、その奥にひそんでいるものが見えてこなく(なってしまう)・・・(中略)物事の裏に潜んでいるルールを確実に抽出して学習するためには、学習スピードが遅いことが必須条件()内筆者
(2)
脳は『正しく判断するために、あえてゆっくり判断・学習していく』わけですね。
何度言っても言うこと聞かない=当然
「何度言っても『くつ』を部屋に持ってきて遊ぶんです泣」というお悩みの相談をいただいたことがあります。この場合、赤ちゃんは理解できないことがたくさん。
『くつ』『部屋』『持っていく』『外』『汚れ』……こんなにたくさんの言葉、その意味・背後関係を知らないと、理解できません。
外に出るときに多くの人が履いている『くつというもの』。その概念が分からないと、なぜお部屋に持ってきてはいけないのか理解できない。『言葉』の記憶だけでなく『~というもの=概念』が不可欠な理由の一つです。
経験と単語をセットでお勉強
行動をより良く変える──。しつけはなんども優しく丁寧に伝え続け『ゆっくり脳が理解するのを待つ』が王道です。「靴は玄関ね」「サンダルは玄関で脱いでね」と靴を持ってきたときに言ってあげましょう。
- 単語や言葉を知っている必要がある
- 脳は正確性を高めるため、ゆっくり記憶する
- 「~というもの」というとらえ方がとても大事
日常生活でいろんな概念をハンティングする赤ちゃんたち。経験と単語をセットにして声かけすることが一番のサポートです。気長に寄り添って、穏やかで賢い人に育ててあげましょう。
参考文献参
(1)(2)池谷裕二. 進化しすぎた脳: 中高生とかたる[大脳生理学]の最前線, 講談社, 2007, p. 192-193